【みよしの部屋】

 

 

 

みよし君は妖精が見えるらしい。

こないだ、長々と自慢された。

 

クラスの中で一人ぼっちのみよし君のことだから、嘘だと思った。

 

「スチールウールみたいな頭しやがって」

って、

心の中で馬鹿にしてやった。

 

 

それでも博愛主義を志す僕は、

親切心から少しだけ話を聞いてあげることにした。

 

 

しかし、

なんの纏まりもない、まったく伝わらない話をされた。

 

あまりにも伝わってこなくて、人と喋ったことないのかって思った。

 

 

表情の表現も、可愛いの一辺倒だった。

 

あんまり可愛い可愛い言うから、クラスの美登里ちゃんより可愛いかって聞くと、

 

「くらべもんになんねーよ」

って。

 

いつからそんな口のきき方出来るようになったんだって思った。

勝手に同等に見てんじゃねーよ、このお花畑野郎

って。

 

美登里ちゃんが馬鹿にされたこともあって、悔しくって。

 

それで、勢いで行くことになった。

 

 

その嘘つきのみよしの部屋に。

 

 

 

 

旋風のような、波のうねりのような

 

――渦潮に点在する島々。

 

それぞれに住人、というよりも世捨て人であろうか。

その表現も違う、これは妖精である。

 

それもよく見る羽の生えた人面の蝶のような存在ではなく、

きのこの胞子のような。

 

うねうねと地を這って動くことしかできない、

かろうじて単細胞であることをを避けたような存在。

 

 

これを妖精という事ができるだろうか。

 

 

判断がつかない。

 

 

しかし見ていたい感情はある。

これらを知りたいとする欲もある。

 

では、ここに腰を据えてみよう。

 

 

存分にこの妖精を見物してやろう。

 

 

 

 

 

刑事さん、

こちらが夫の……、みよしの部屋になります。

 

 

ええ、ええ、それは勿論、

まだ遺品の整理も始めてない次第で。

 

何もやる気が起きませんでして、心が泡立ったままといいますか。

 

これから、どうしたらよいのでしょう……、

 

困り果ててしまって。

 

 

――!

 

 

刑事さん――?

 

 

刑事さん――!

 

 

おやめになって……!

 

 

 

えぇっ、私自身が……?

 

 

背徳に蒸れた双眸と……、肉欲を隠しきれない膝頭……?

 

 

 

 

でも、でも……!

 

 

 

ここは、逝ってしまった夫の

―― みよしの部屋、なのですよ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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