【エロジジイ】
「そりゃあ、珍しい経験したよな」
「貴重な体験でした。見ず知らずのひとたちと、あんなに密接にかかわれるなんて。でも帰る道みちさすがに怖くなってきて。いわゆる痴情のもつれですか? おれそういうのはじめてだったから、恨み買ってお礼参りとかされたら、なんて思うと帰るに帰れなくなってるとこへ、先輩のこと思いだしたんす」
「どうも」
「っていっても、あの屈強なやつらのことがおれ、きょうだいとか自分の分身みたいに思えてきててですね、いくら先輩でも、売るわけにはちょっといかないんだなあ。だから居所はいえません。ただ悲しいことだけど、やつらが誤解しておれをぼこぼこにしにくる可能性もないこともないから、どうでしょう、若くて威勢のいいのを何人か、うちのアパートの前に常駐させてもらえませんかねえ?」
「どういえばいいのかな。まず、痴情のもつれは関係ない」
「やつらにとっちゃ遊びだったってことっすか? そんなあ」
「よく聞け。あのな。間違えられたんだ」
「そうっすよ」
「DVDを延滞したまま行方をくらましたやつとたまたま同じ名前だったせいで、間違えられて監禁されて暴行を受けた。で、逃げだしてきた。ってことをおまえが知ってしまったってのは致命的だな」
話しながらのべつ煙草に火をつけては半分も吸わないうちに揉み消していく水口につられて、わたしもたっぷり残っていた箱をひとつ空にしてしまっていた。山盛りになった灰皿をゴミ箱に空けにいき、ついでに薄い光のなかで渦を巻いている煙を外にだそうと窓に手をかけたとたん、両隣の部屋に響き渡るような大音声で、あいつらに見つかったらどうすんだ、やめてくれと水口がわめきだす。ほとぼりが冷めるまで月極めのマンションにでも身を隠してはといいかけたところで、地方への出向を命じられて半年ほど部屋を空けなければならなくなったのだが、そのあいだ無用心だからたまにようすを見にいってもらえないだろうかと、鍵を預かっていたことを思いだし、その部屋を使わせてもらうかと持ちかけると、水口は膝を打って飛びだしていきかけたが、その前に出前でもとろうと引きとめると、それまで横になる、と寝そべるやいなや高いびきをかきだした。
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