【こんにちは】

 

 

 

 

縦に罫線の入った便箋を裏返して何枚かをテープで貼りあわせると、その中央に、歪にくれたイモのようなかたちを描き入れる。右上にこれまたあちこちのゆがんだ横長の塊を浮かべてから、そのあいだを目の粗い斜線で雑駁に埋めた。さらに赤いサインペンでイモのかたちの下の端をふちどると、南アフリカ共和国とその周辺の地図ができあがった。窓からの陽に晒されないように、部屋の奥の吊り戸棚の陰に紫の花をつけた樹の写真と並べて貼りつける。汚れたテーブルクロスを替えるように、アフリカの地図を定期的にあたらしいものにとり替えた。赤い線でしるしをつけた南アフリカの国境を指先でなぞり、紫の花の写真に額を押しつけて深呼吸を繰り返すうちに、いつも身体じゅうにびっしりと生えている気がしていた棘がやわらかく撫でつけられ、身体は重さを失って高く昇っていったまま綿のような雲と溶けあう。晴れた日には果てしなく高くなる空の底は、巨大で清潔な高層ビルの群れにかぎられていて、その窓ガラスは映画のフィルムのように刻々と変わっていく雲のかたちを映しだしている。だだっ広い道には、ときおり砂煙をあげて通りすぎる車のほかにはひと影も見あたらない。南アフリカの首都ヨハネスブルグでは、一年に二百人の警官が殺されていて、十三秒にいちど強姦がおこなわれているという。日本でならコンビニエンスストアの前でたむろしているような子どもたちが、ここではバズーカー砲を抱えてうろついている。防弾チョッキを常用している警官たちは、身を守るために機関銃を乱射することも珍しくない。赤信号で停まるとタイヤを撃ち抜かれることがあるため、車は基本的に信号を守らないのだが、かといって飛ばしすぎているとよけいに強盗たちの攻撃欲を刺激することになる。かつては大阪の空港から直行便がでていたが、機内は空席だらけで客より乗務員のほうが多いくらいだったという。いまでは、すくなくとも都心部には観光客の姿はない。街そのものを発展させてきた白人富裕層や企業も郊外に移住してしまっているため、高層ビル群はほとんど廃墟と化している。富裕層の邸宅で飼われているのは、犬猫ではなくハイエナである。

 

 

 

 

 

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